セサミ読書日記

本の紹介など

ミツバチと虫クンとダーウィンとカンデルと:後半

動物は交尾の相手や食べ物を見つけたり、森や海、空を移動するルートを知る必要もある。こうした作業には問題解決能力が必要だと、ダーウィンは主張した。

人間相手の認知心理学者は自分たちの定義にこだわるあまり、動物の認知能力研究のすばらしい成果を見過ごしている。

動物の認知能力の研究を見ていると、おのずと謙虚になる。創造したり計画したりするのは人間だけに与えられた能力ではないのだ。

(『動物の知力』in 「ナショナル・ジオグラフィック日本版2008年3月号」)

 

前回の続きです。

森山徹著『ダンゴムシに心はあるのか』という本を紹介しました。この本では『心』に関する説明はされていますが、『心』に関する定義はきちんとなされていません。

それは有る意味当然で、現代科学ではまだ、『心』がどのような仕組みになっているのか、解明されていないからです。

『心』というよりも『自我』とか『個性』と表現したほうが、しっくりくるのではと私は思いました。人間だけでなく、他の動物や昆虫なども、本能のみで行動するのではなく、これまでの経験を踏まえて環境に応じて試行錯誤しながら考えて行動するのであり、従ってその行動様式は個々人(個々動物、個々虫)で異なってくる。自ら考える『自我』を持ち、独自の考え方によって独自の行動を取るという『個性』が現れる、そのようなことではないかと私は考えました。

 

2000年にノーベル生理学・医学賞を受賞した神経学者のエリック・カンデルは、1960年代に、巨大なアメフラシを使って記憶と学習の研究を始めたそうです。その際、同僚から、記憶の研究を行うのにアメフラシのような下等生物を用いることに疑念を抱かれたそうです。しかし、

「私は生物学者の考え方をするようになりつつあった」と、アメフラシの研究をしようという決断を回想して、カンデルは書いている。「あらゆる動物に、自分の神経系の構成を反映するなんらかの精神生活があることを、私は認識していた」

オリヴァー・サックス著『意識の川をゆく』より)

 

全ての動物の神経細胞の構造は共通であり、発生が進むにつれて神経細胞によって作られる構造が複雑化していきます。神経細胞が集中して様々な情報処理を行う場所を脳と呼びます。したがって、進化に伴い、脳の機能やそれに伴う判断能力も進化してきたのであり、その高度なものを『精神生活』と呼ぶのであれば、進化の初期段階の生物にも原始的な『精神生活』があり、進化するにしたがって『精神生活』も高度に複雑化していったと考えられます。つまり、精神生活は人間のみが有するものではないと考えられるのです。

動物は『動く』ので、脳が発達していったと考えられてます。それを示す面白い例があるので、少し長いのですが、引用します。

 

体を動かすことは、おそらく、学問的、社会的、情動的な大量の知性を支える基盤になっている。(中略)

ニューヨーク大学の神経学者ロドルフォ・リスナは、脳が発達したのは、生物が物にぶつからずに動きまわるのに脳の手助けが必要だったからだと述べ、脳をもつとはどういうことかを考える究極の例にホヤをあげている。ホヤは原始的な生物で、およそ三百の脳細胞をもち、最初はオタマジャクシに似た姿をしているが、最後はカブのような形になってしまう。生まれ出た最初の日は泳ぎまわり、やがて定住する場所を見つけて取りつくと、死ぬまで二度と移動しない。

話はここからおもしろくなる。ホヤは泳いでいるあいだは原始的な神経システムをもっているが、ひとたび何かに取りつくと、自分の脳を食べてしまう。しっぽも食べる。つまり、オタマジャクシのような生物としてオタマジャクシのような脳をもって生まれ、それからカキの仲間のような生物に姿を変える。もう二度と移動することはないのだから、脳は必要ない。

リスナ博士の説によると、私たちは脳があるから移動できる。移動しないのなら、脳は必要ないので脳をもたなくなる。

(テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン著『動物感覚』より)

 

 ホヤというのは原索生物で、進化上では脊椎動物(魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類)の直前に位置します。私は発生の初期段階でオタマジャクシのような形をしているということは知っていたのですが、まさか成体になる前に脳が消滅してしまうとは知りませんでした。世の中には色々な生き物がいるのですね。

 

では、動物の精神生活はどのようなものなのか。それに関して、テンプル・グランディン氏が非常に面白い本を出しているのです。

グランディン氏は、ウィキペディアには、

テンプル・グランディン(Temple Grandin, 1947年8月29日-)は、ボストン生まれ、 アメリカ合衆国の動物学者、非虐待的な家畜施設の設計者。コロラド州立大学教授。女性。自閉症を抱えながら社会的な成功を収めた人物として知られている。

と書かれています。

次回、グランディン氏と『動物感覚』などについて書いていきたいと思います。

この本は、私が最も感銘を受けた本の一つであります。私は本を読むときに、気になった箇所に鉛筆で線を引くのですが、線だらけです。引用したいとこ、ありすぎ。どうしよう・・・。

 

動物感覚 アニマル・マインドを読み解く

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 アマゾンの書評に目を通してみてください。他に類をみない名著であることが、おわかりいただけると思います。うまくまとめられる自信がないけど、やるだけやってみます。では次回。